「忘れ得ぬいのちの証人・森有正」加藤常昭氏(1/3)

「森有正・森寛子」御言葉を生きた人びと・加藤常昭

「忘れ得ぬいのちの証人・森 有正」
み言葉を生きた人びと
加藤常昭氏(神学者)

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本当の冒険とはやむなく出会うもの

森有正先生は東京大学のフランス文学の助教授でしたが、戦後間もなくフランスへ留学することになり、一年で帰る予定が行ったきりになってしまった。東大に辞表を出し、パリ大学で日本語教師をしながら勉強をなさり、だんだんと労苦の実が結ばれ、森先生らしい思想的な著述を始められるようになりました。

森先生のアブラハムについての文章の中に「冒険と方向」という言葉があります。

「冒険というのは自分の心の軸を他のものに結びつけ、それと共に生き、それと共に学び、それと共に場合によっては苦しみ、その中から自分の魂を豊かにしていくこと、また他を豊かにしていくことであります。ですからある意味で冒険というのは自分でないある一つのものに結びつけられ、そのものに方向づけられるという面を持っております。…本当の冒険というのは求めるものではなくてやむなく出会うものである。これはアブラハムの生涯の中のすべてに表れております。」

森先生が経済的な自立の当てもなくフランスに留まっておしまいになったのは、まさにこの冒険の旅を始められたからだと思います。